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マリアージュを楽しむ

第二十三回シャトージュンとマリアージュするひと皿 マザーズオリエンタルの「愛知県篠島産ムール貝の鉄板焼き」×セレクト ロゼ 辛口(巨峰)のマリアージュ

シャトージュン セレクト ロゼ 辛口(巨峰) 2013年から醸造がスタートした、シャトージュン初の辛口ロゼワイン。現在発売中の2015年出荷分は、山梨県産の巨峰をメインにピオーネを少量使用。 桜を彷彿とさせる淡くほのかなピンク色と、酸味を伴う若い葡萄や桃のような香りと味わいが特徴。 ドライでキレがあり、さまざまな料理に合わせられる万能タイプ。山梨のワイナリー併設のショップ専売品のため、現在オンラインストアでの取り扱いはなし。

ひとくちに“ワインと料理のマリアージュ”といっても、その方向性はさまざまだ。料理の味と香りをワインがさらに増強したり、新たな魅力を添えたりすることもあれば、反対に料理のクセや過剰な部分をワインが抑制してバランスを整えてくれることもある。 それでは、そのどちらにも当てはまらない、“ひと皿のなかで既に料理とソースのマリアージュが完結している場合”はどんなワインがマッチするのか? 今回は、この想像するだけでもわくわくするような“難題”に「マザーズオリエンタル」が提示してくれた回答をご紹介しよう。

西東京エリアを中心に10の飲食店を展開する「マザーズ」。系列店のなかでも、立川駅前の映画館「シネマシティ」の1階に店舗を構え、映画鑑賞前後のお茶からウエディングパーティまでと、ひときわ多彩なシーンに応えるカフェ&レストランが「マザーズオリエンタル」だ。 この店が絶対的な誇りをもっているのが、ずばり食材。オーナーがスタッフと共に国内外を回って探し、時間をかけて作り手との繋がりを築いてきた。 2005年の開店以来この食材を活かしたイタリアン&グリル料理を提供してきたが、今年(2015年)でオープン10周年を迎えた「マザーズオリエンタル」は、さらなる進化を遂げようとしている。 優れた食材とあらゆるニーズに応える施設と姿勢はそのままに、メニューは食材を最大限に活かすべく、ジャンルにとらわれないラインアップへとリニューアル。 より食事の楽しみを広げてくれるワインやパンにも力を入れた。接客についても、それぞれのゲストに合わせて提案型のサービスができるようスタッフの育成方針を変えた。メニュー構成やワインリストなど、この“変革”全般に渡るキーマンが今年「マザーズオリエンタル」に加わったソムリエの吉澤和雄さんだ。自身で酒販店「ル・グラン・ノワール」(主に飲食店が対象)も運営する彼は、シャトージュンとの関わりも長い。昨年初めて発売された「セレクト ロゼ 辛口(巨峰)」は、そんな彼も唸る仕上がりだったという。今回は、新しくなった「マザーズオリエンタル」の料理と、シャトージュンの新定番として仲間入りしたロゼワインのマリアージュを紹介する。


1 前菜からデザートまで、オールマイティにこなす鈴木料理長が、なかでも得意とする肉料理を堪能できる「本日の肉尽くし」(写真の200g ¥2,500のほか、300g ¥3,200も用意)。宮崎産・尾崎牛のランプステーキと平たく成形したオリジナルの自家製サルシッチャにローストにした淡路島直送の玉ねぎ、地元・立川産のじゃがいものフリットを添えて(野菜の産地は時期によって異なる)。 2 西東京エリアで提供している飲食店はここくらいという尾崎牛。“幻の牛”と言われる希少な牛が入るのも、食材にこだわり、生産者との繋がりを大切にするこの店ならではだ。


3 気鋭のパン職人、神林慎吾さんが腕を振るう系列店「ブーランジェリー・ビストロ・エペ」のパン。カンパーニュやバゲットなど3〜4種類から、注文した料理に合わせてパンを提供している(アミューズ、パン代として¥350)。 4 これからぜひ注目したいのが、旬の野菜をセミドライにして練り込んだ“肉に合うパン”。こちらはかぼちゃを入れたパン。「マザーズオリエンタル」で料理人がセミドライにした野菜を「エペ」でパン職人が生地に練り込み、焼き上がったパンがまた「マザーズオリエンタル」で肉料理に合わせて登場する。ここにも人と人、パンと肉の“おいしい”マリアージュがある。

現在「マザーズオリエンタル」で提供している「セレクト ロゼ 辛口(巨峰)」は、醸造がスタートしてから2年目となる2014年のヴィンテージ。 巨峰というと多くの人が芳醇で豊かな香りや甘みを連想するに違いない。しかし、このロゼはまず色や香りからしてそのイメージから離れたものだといえるだろう。 スキンコンタクト(発酵前の果汁に果皮を漬け込むこと)の時間を短くし、甘いキャンディ香が出る前に果皮を取り除く。そのため、色は非常に淡く、香りも穏やかだ。 明らかに巨峰と分かるような香りはないと言ってもいい。「香りにも味にも過剰な甘さがなく、すっきりしていてシャープ。酸もあります。 巨峰らしい香りは最後にほんのりふわっと漂うくらい。合わせる料理も選ばず、万能すぎるくらい万能。現時点で、自分にとってベストな日本のロゼです」(吉澤さん)。 “万能”というワインにあえてソムリエが合わせるのは一体どんな料理なのか?それこそが、“一皿のなかで既に料理とソースのマリアージュが完結している”メニューだった。

吉澤さんが選んだのはメイン料理の「愛知県篠島産 ムール貝の鉄板焼き」。スペイン料理の鉄板焼き、プランチャをイメージしたメニューだ。 ベーコンとシェリーヴィネガーのソースに加え、バーボンを効かせたマッシュポテトとハラペーニョが添えられている。実はこのひと皿のなかで、料理×ソース、料理×サイドディッシュ、料理×ピクルスという3つのマリアージュが完結しているのだ。 まず、料理とソースは北米などでいう“Surf&Turf”の関係にある。Surf(海の幸)=ムール貝、Turf(芝地)=ベーコンというわけだ。 抜群の鮮度とふくよかな味を誇る愛知県知多半島の離島、篠島産のムール貝にベーコンの旨みが活きたシェリーヴィネガーソースを加え、食べごたえのあるメイン料理に仕上げている。 サイドディッシュのバーボン風味のマッシュポテトは、生牡蠣にシングルモルトを垂らすスコットランドの食べ方をアレンジしたもの。 さらに、魚介類に辛く酸っぱいハラペーニョを合わせるメキシコ料理に着想を得てハラペーニョのピクルスを付け合わせにした。

このような既にマリアージュが完成している料理に合わせるとすれば、味わいを邪魔しないワインか、口のなかをさっぱりと流してくれるようなワインか……。 しかし、料理とワインのマリアージュを楽しむのに、“邪魔をしない”ことが最大の理由というのも少し味気ない。「こんな料理にこそ選びたいのがシャトージュンのセレクト ロゼ。 先に万能と言った通り、合わせられない料理は基本的にないと考えています。

5 右から料理長の鈴木 淳さん、ソムリエの吉澤和雄さん。「ときに無理難題ともいえるこちらの要望を、期待以上の形で仕上げてくれる。頼れる料理人です」(吉澤さん)。「正直毎日大変です(笑)。オーナーもよく言うのが“食材を活かすも殺すも料理人次第”。大変でも、最大限に食材を活かすために皆のアイディアをできる限り反映したいですね」(鈴木さん)。 6 個室やソファー席が用意されているのも魅力。プロジェクターやマイクなどパーティに対応する各種設備もそろい、さまざまなシーンで活用できる。

ではこのワインがどこでいちばん活躍するかといえば、ほかのワインでは替えがきかない料理と合わせる場合です。このロゼにあるのは巨峰の甘い香りではなくほのかなベリー香。 フレンチなどでヴィネガーとベリーのソースを魚介類に使うこともありますので、後口に少し香るベリーをこの料理に合わせました。 最初はワインが料理に寄り添い、次第にムール貝、ソース、ふわっと香るロゼの三者がばしっとマッチする。このロゼでしか楽しめないマリアージュです」(吉澤さん)。

もともとさまざまな客層をもつだけに、多くの人に向けて料理もワインもカジュアルな価格帯を用意していた「マザーズオリエンタル」。 吉澤さんの参加以降、大きくワインリストは変わった。グラスは¥500、ボトルは¥2,900からとリーズナブルな価格はそのままに、なかでもいちばん需要のある¥2,000〜3,000台のボトルを多くそろえ、ものによってはカラフェ(500ml)でも注文ができるようにした。 フランス産をメインに、シャトージュンのセレクト ロゼと甲州のほか日本や他の国のワインも少しずつオンリストしている。 「“こんなワインが飲みたい”という要望にお応えするべく、さまざまな国、味わいのワインを用意しています。特に気兼ねなく飲める価格帯を充実させました。ワインに詳しい方はもちろん、そうでない方にも気軽にワインを飲んでいただきたいですね」(吉澤さん)。 “多くの人に向けて”というキーワードは料理にも当てはまる。オーナーや吉澤さんを始めとするスタッフとアイディアを出しあい、ブラッシュアップして料理として形にする料理長の鈴木 淳さんも「料理はもちろん、デザートや紅茶も充実しています。 “ちょっとお茶”でも“わいわい仲間と飲み会”でも、お客さま一人ひとりの目的や気分に合わせて過ごしていただける店でありたいです。 メニューも各国の料理を取り入れたことで、選ぶ楽しみが増したのではないでしょうか」と語る。

多様な客層をもち、多彩な料理とワインがそろう店だからこそ、接客も重要度を増す。今後はさらに、マニュアル通りではなくそれぞれのゲストに合わせたオリジナルの対応を心がけていくという。 系列店のパン職人とタッグを組んで開発中の“料理とマリアージュするパン”も期待大だ。「同じ価格帯の飲食店が数多く存在する立川にあって、“何を飲んで食べてもおいしくて、かつ、来る度に何か発見がある”と思っていただける場所でありたいです」(吉澤さん)。 その言葉が表すように、10年を迎えた「マザーズオリエンタル」は、新たな10年へのステップを力強く踏み出し始めた。 生食用ではなくワイン用の葡萄として巨峰とその生産者の可能性を広げるシャトージュンの「セレクト ロゼ」も、次世代のロゼといえるだろう。 新たな時代を感じさせる今回のマリアージュは、冒頭に掲げた“難題”への痛快な名回答となった。ぜひ一度立川に足を運び、新しい「マザーズオリエンタル」の料理と「セレクト ロゼ」の魅力を実際に味わってみてほしい。

「愛知県篠島産 ムール貝の鉄板焼き ベーコンとシェリーヴィネガーのソース」(¥1,450)、
「シャトージュン セレクトロゼ 辛口(巨峰)」(グラス¥800、ボトル¥4,200)
 ※記事内の価格はすべて税込。

マザーズオリエンタル

東京都・立川駅からほど近い映画館「シネマシティ」の1階に位置するカフェ&レストラン。 オーナーやスタッフが日本各地を回って探した野菜や肉、魚介をメインに、国内外の旬の食材を使ったジャンルにとらわれない料理を提供。 テーブル席、ソファー席、テラス席、個室を備えるほか、ポーションが選べる料理や量が選べるワインなどフード&ドリンクにも豊富な選択肢を用意。 お茶や軽食から大規模な貸し切りパーティまで、人数や気分に合わせて幅広く活用できる。総席数は75席。

DATA マザーズオリエンタル
東京都立川市曙町2-8-5 シネマシティ1F
電話 042-528-0855
営業時間 11:00〜15:30(15:00LO)、
     18:00〜24:00
日曜のみ 11:00〜22:00(21:00LO)
無休
http://www.mothersgroup.jp/shop