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マリアージュを楽しむ

第十六回シャトージュンとマリアージュするひと皿 浅草むぎとろ 本店「総料理長 おまかせ懐石」×「シャトージュン 甲州2013」のマリアージュ

シャトージュン 甲州2013 シャトージュンの看板キュヴェに2013年のヴィンテージが登場。時期を見極めて収穫した甲州をステンレスタンクで低温発酵させ、葡萄の果実味をしっかりと反映させた中口タイプのワイン。洋梨、花梨、柑橘類の穏やかな香りとキレのよい酸味を合わせもち、奥行きを感じさせる味わい。葡萄の栽培者は志村一夫氏。
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豊富な食物繊維とミネラルを含み、低カロリーでヘルシーなむぎとろごはん。創業から85年以上の間、浅草でむぎとろを作り続けてきた老舗が自分たちの料理に合うワインを探して辿りついたのは、シャトージュンの甲州だった。今回は、むぎとろをメインにした懐石料理と甲州のマリアージュをご紹介したい。

隅田川に架かる駒形橋のふもとに立つ「浅草むぎとろ 本店」は、創業85余年の老舗とろろ専門店だ(※2014年現在)。むぎとろをメインに四季折々の食材をふんだんに使った"とろろ懐石"や漢方の食材でもあるとろろを取り入れてアレンジした"薬膳懐石"など、とろろの多彩な味わいを提供してくれる。田中一成氏が社長に就任したのは約半年前(※取材時)。就任以前もワインは提供していたが、特に料理との相性を意識したワインをセレクトしていたわけではなかったという。「浅草むぎとろでお出しするのはとろろ懐石をはじめとする和食。食材本来の味と出汁が要(かなめ)の料理です。社長に就任した半年前、日本の食材と出汁が作り出す繊細な味にフィットする酒類をお出ししようと決意しました。世界各国のワインが手に入る時代です。そのなかで、和食に何を合わせるか? ワインについては、マリアージュの考え方に立ち返り、生まれた"土"を合わせることにしました。同じ土、つまり同じ国で生まれたワインならば和食の繊細な部分を活かせるのではないかと考え、日本の白ワインを探すことにしました。現在も時間を見つけては日本各地のワイナリーを訪ねていますが、昨年の晩秋に山梨・勝沼のワイナリーを回れるだけ訪問しようとした矢先に見つけたのがシャトージュンの醸造所だったのです」(田中氏)。


とろろには粘りが強く味も濃い大和芋を使用(1)。代表取締役社長の田中一成氏(2)。先付けの後に供される鱧と松茸の吸い物(3)。吸い物に続いて登場するお造り。上の小鉢にはハタの身とさっと茹でた皮が盛りつけられている(4)。

移動中にワイナリーが目に入り、引き寄せられるようにシャトージュンに入った田中氏は、たまたま試飲カウンターに立っていた醸造責任者の仁林欣也の話を聞きながら甲州をテイスティングし、このワインが和食に、なかでもむぎとろに合うと直感したという。「シャトージュンの甲州は、主張が強いようで"出すぎない"点が魅力。アタックにはキレがありますが、飲み干した後には心地よくさりげない余韻が続きます。この穏やかな余韻は、出汁が生む和食やむぎとろの繊細さと非常に好相性です。ワインと料理、お互いが持ち味を主張したうえでぶつかりはせず、それぞれを引き立ててくれるのです。また、栽培者と一丸となったワイン作りについての話を伺って、つくり手=ぶどうを栽培する人と醸造する人の両者のプライドが詰まったワインだと感じました。和食が食材を活かすことを大切にするように、仁林さんも栽培者とその葡萄を活かすことを大事にしている。料理との相性のよさはもちろん、その思いや姿勢をお客様に伝えたいと思って甲州をオンリストすることにしました」。現在、「浅草むぎとろ」と系列店の全5店舗にシャトージュンの甲州がオンリストされている。

本日甲州に合わせたのは、複数あるコースのなかでも、もっとも厳選された食材で構成する「総料理長おまかせ懐石」。長 幸樹総料理長の"旬の素材を活かしてその味を引き出す"という思いが隅々まで行き届いた料理だ。夏のある日の献立は、全9品目。雲丹の塩辛の小鉢に蒸し鮑と蓮芋、たらば蟹や鯛などを長方形に整えた先付け三種、土瓶蒸しの形でいただく鱧と松茸の吸い物、旬のハタに伊勢海老やシマアジを添えたお造り、焼き物は甘鯛のうろこを活かして焼いた沖津焼き。

カリっとしたうろことふわっとした身の妙が楽しい甘鯛の沖津焼き。焼き物として登場(5)。凌ぎは葉蘭に包まれた牛大和煮と飯蒸し(6)。伊勢海老の黄味に季節の野菜を添えた冷やしのっぺい煮(7)。目にも涼やかで美しい酢の物(8)。

続いて牛の大和煮と飯蒸しを葉蘭で包んだ凌ぎ、新潟県の郷土料理をアレンジした冷やしのっぺい煮、昆布で締めた鱚と白瓜を梅肉の餡に浮かべた酢の物が登場。食事にむぎとろがお目見えし、すいかなど季節の果物がデザートとしてコースを締めくくる。「創業85年、変わらない味をご提供することを大切にする一方、変化していく部分も重要だと考えています。変えない部分の主たるものがむぎとろのとろろ。粘りの強い大和芋を100%使用し、創業以来変わらない出汁と合わせてとろろを作ります。米対麦が4:6と、麦の配合率が高いのも特徴。麦の食感を活かすため、固めに炊き上がるように水加減を調整しています。シャトージュンの甲州は、キレのあるアタックがとろろの粘りをすっきり流し、穏やかな余韻がむぎとろ本来の味を際立たせてくれます。コース全体に登場する旬の食材と出汁の繊細な味わいを打ち消さずさらに引き立ててくれるうえ、我々の看板料理であるむぎとろとは最高の相性を見せるワインと言えます」。おすすめを一方的に押し付けるのではなく、考え抜いて厳選した選択肢のなかからお客様の好みに合うものを選んで楽しんでほしいと言う田中氏。むぎとろと甲州のほか、今後は魚や肉の献立に合わせてほかの品種のワインも組み合わせを提案していきたいそうだ。まずは、老舗の"変化する部分"の第一歩、むぎとろと甲州のマリアージュを体験してみてほしい。きっと、ワインと和食のさらなる提案を心待ちにしたくなるはずだ。

夏の「総料理長おまかせ懐石」(¥16,200〜/サービス料別。前日までに要予約)の献立から、先付け三種と食事(むぎとろ、とろろそば、薬膳粥から選ぶことができる)、「シャトージュン 甲州2013」(ボトル¥6,480、グラス¥1,080)※記事内の価格はすべて税込。

浅草むぎとろ 本店

隅田川のほど近く、駒形橋のほとりに立つ老舗とろろ専門店。85年以上の歴史をもち、麦とろをメインにした"とろろ懐石"と薬膳に欠かせない食材でもあるとろろにフォーカスした"薬膳懐石"を提供する。また、懐石コースのほかに料理長のこだわりを反映したアラカルトも充実。フォーマルな会食から気取らない集いまで、さまざまな場でむぎとろを楽しむことができる。3階建ての建物には、大人数で利用できる広間から落ち着いた雰囲気の個室までと大小のスペースを備え、テーブル席のほか畳の本格的な和室も完備。人数や目的に合わせて利用できる。車椅子での入店も可能。

DATA 浅草むぎとろ 本店
東京都台東区雷門2-2-4
電話 03-3842-1066
営業時間 11:00〜16:00(ランチ)、
16:00〜21:00 LO(ディナー)
無休
http://www.mugitoro.co.jp/