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マリアージュを楽しむ

第八回シャトージュンとマリアージュするひと皿 萬鳥 MARUNOUCHI の「ブレス産鶏のもも肉 骨付一本焼き」×「シャトージュン甲州2011」のマリアージュ

シャトージュン 甲州 2011
日本独自の品種である甲州を100%使用。時期を熟考して収穫した葡萄をステンレスタンクで低温発酵させ、果実味をしっかりと閉じ込めたワイン。洋梨、花梨、青りんご、白桃、柑橘類など、さまざまなフルーツが穏やかに香り、長い余韻をもつ。今回のロットはすべて山梨・勝沼町菱沼地区で栽培された甲州を使用。酸味と甘さのバランスがとれた中口のワイン。
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おそらく、日本で初めて"焼鳥とワイン"を打ち出したレストランがある。名前は「萬鳥」。浅草のフレンチ「ラ・シェーブル」でシェフを務めていた田口昌徳さんが"フランス国内で最良の食肉とフランスワインを、もっと気軽に楽しんでほしい"と本店をオープンしたのが2000年。7年後には2号店の「萬鳥MARUNOUCHI」が開店。ほぼフランスワインのなかで数少ない他国産のワインとして「シャトージュン」がオンリストされている。その理由を「萬鳥」いちばんの看板メニューとのマリアージュとともに探ってみよう。

「うちでは、お客様が"マリアージュを意識しなくてもいい"ワインを揃えているんです」とは、店長の吉澤和雄さん。「マリアージュとは、料理とワイン各々の余韻と余韻が織り成すものだと考えています。ワインにしても肉や野菜にしても、印象に残るものは、食べた後の余韻が長く続きます。その余韻と余韻の響きあいこそが料理とワインのマリアージュ。料理人たちが話し合って決まったフードのメニューに合わせてワインリストを組むのが僕の仕事。お客様に"この料理に合うワインを"とご相談されたら、実は"どのワインでも合います"というのが本音。お客様がどちらをお選びになっても、料理と余韻が美しく合うワインだけを選んでいます。もちろん、より細かくお客様の好みや予算等を伺ってご提案もしますが、そうやって胸を張って答えられるようなラインナップにするべく、集中して吟味を重ねたリストを作成しています」。ワインの美しい余韻につながるのは、きれいな酸味という吉澤店長。「糖度からくる余韻には、口にまとわりつくような印象がありますが、酸がもたらす余韻は、料理とバランスよく調和する芯の強さとしなやかさをもっています。その観点で選ぶと、うちの料理に合わせやすいのはきれいな酸をもつフランスワイン。オープンからしばらく、ワインはフランス産だけでした」。

「備長炭は火力が断然違いますね。高温で一気に焼きあげるので、煙の香りも瞬間燻製のように閉じ込めたような味わいが楽しめます」と、料理長の冨田直也さん。

そんな吉澤さんが「シャトージュン」をオンリストするようになったのは何故だろう? 家で夕食に焼き鮭を食べていた際、たまたま「シャトージュン」のセミヨンを飲んで衝撃を受けたという。「鮭とワインそれぞれの余韻の調和が素晴らしかった。日本のワインでこんな経験は初めてだ!と、翌日醸造家の仁林さんに電話をしてその場で"店舗で扱わせてください"とお願いしてしまったくらいです」。これが「萬鳥」と「シャトージュン」の出合い。しばらくセミヨンをオンリストしていたが、2011年からは甲州も仕入れるようになった。「2011年から甲州の印象が変わったのがきっかけですね。前年より酸が強く、余韻も長く感じました。ただ、品種が変わっても味わいの軸は変わりませんね。そこがシャトージュンに惹かれる理由なのですが、セミヨンでも甲州でも、必ず細く長い余韻があって単純に心から"うまい"。品種に拘らずこのワイナリーならではのスタイルが感じられます。そこから、少数ですが日本のワインも余韻のきれいなものをオンリストするようになりました。日本の作り手や日本産の葡萄の魅力をしっかりと伝えることがひいては日本のワインを広めること…日本のソムリエとして果たすべき務めだと思っています」。

昨年、今年と「シャトージュン」を訪問したという店長の吉澤和雄さん。「瓶詰め前に少し飲ませてもらった甲州のおいしさが忘れられず、瓶詰め完了後すぐに送って頂きました」。

店舗に入ってすぐに厨房が見えるハイテーブルのコーナーが(写真上)、奥には8名まで対応可能な会食スペースがある(写真下)。ふらりと一人で立ち寄るもよし、皆でわいわい来店するもよし。

では、新ヴィンテージの甲州と「萬鳥」を代表するメニュー、ブレス産の鶏のもも肉とのマリアージュを試してみよう。梨やりんごから蜜柑まで、パレットのようにさまざまなフルーツの香りが広がる甲州。口に含めば甘さと酸のバランスが生み出すふくよかさののち、深い余韻が続く。そこへ、旨みをすべて閉じ込めるべく骨付きの1本を丸ごと焼いたブレス産の鶏もも肉を一口。備長炭による高温の"焼き"で、ざっと煙に包まれて香りがぎゅっと濃縮された肉は、噛むほどに、また食べた後にも長い余韻を残す。ワインと焼鳥それぞれの深みある余韻は、両者が重なることによって美しいマリアージュを描く。「料理に合うものだけ」というリストに大きく頷ける、余韻と余韻の掛け合いが楽しめる組み合わせだ。

「萬鳥」では、ブレス産の鶏などの定番からシーズンには日替わりで入荷するジビエまでといった多彩な種類の焼鳥に加え、フレンチや和のメニューも提供している。「とはいえ、余計なことはせずシンプルに、和は和、フレンチはフレンチと、フュージョンさせないのが萬鳥流。焼鳥は藻塩のみで味付けますが、ほかの料理もあまり多くの要素を重ねないメニューが多いですね」。素材そのものの味が活きる料理と深い余韻をもつワインは、美しく"余韻のマリアージュ"を生み出す。引き算の料理と言われた「ラ・シェーブル」から通う一本の筋は、「シャトージュン」のブレないスタイルとも通ずるところがあるかもしれない。「本店がある浅草では、10年はひよっこもいいところ。3代続く店が多くある場所です。そのなかで続けていくには、目先の流行りにとらわれずに、店の姿勢とテーマとして掲げてきた"焼鳥とワイン"を貫いていくことが重要」。近年、ぐっと増えた"焼鳥とワイン"の店。フレンチ最良の食材とワインを気軽に楽しんでほしい……その思いから始まったオリジネーターが提案する、フランスの鶏と日本のワインのマリアージュをぜひ試してほしい。

「ブレス産 鶏のもも肉 骨付一本焼き」(¥1,950)、「シャトージュン 甲州 2011」(グラス¥800、ボトル¥4,500)

シャトージュンが楽しめる店 萬鳥 MARUNOUCHI

東京・浅草のフレンチ「ラ・シェーブル」(※現在は閉店中)の田口昌徳シェフが、フレンチで最上の食材とされる鶏をシンプルな調理法で気軽に味わってもらおうとオープンした焼鳥店「萬鳥」。浅草の本店同様、新丸ビル店でもフランス・ブレス産の鶏やシャラン鴨、秋にはジビエなどを広島の藻塩と備長炭のみで調理。また、パテやテリーヌなどフレンチのメニューもラインナップ。「シャトージュン」など少数の日本ワインのほかはすべてフランスワイン。フランスから来日した際に店舗を訪れる生産者も多い。新丸ビルディング内と抜群のアクセスを誇り、テーブル席のほか、8名まで対応可能な会食スペースも備える。カード使用可。

DATA 萬鳥MARUNOUCHI
2017年3月27(月)を持ちまして閉店いたしました。