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マリアージュを楽しむ

ワインジャーナリスト、有坂芙美子さんと楽しむ、泉岳寺門前 紋屋の「魚神の塩焼き」×「シャトージュン シャルドネ 2011」のマリアージュ 第七回シャトージュンとマリアージュするひと皿 SPECIAL Vol.2

シャトージュン シャルドネ 2011
山梨県の自社畑で栽培したシャルドネを使用したワイン。国産ワインコンクー ルでも連続の入賞を果たしている畑での葡萄を使い、新樽を多く使用した贅沢な作り。焦がした木のニュアンスをもつ香りと酸味が豊か。辛口で強さのある味わいは、バターや胡椒を使った料理とも相性がよい。(写真のヴィンテージは2009年)
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「魚神の塩焼き」(¥16,800〜のコースで通年登場する)、「シャトージュン シャルドネ 2011」
(ボトル¥7,000)

先月と2回にわたってお届けする「シャトージュンとマリアージュするひと皿」スペシャルバージョン。前回に続き、ワインジャーナリストの有坂芙美子氏を迎え、富山直送の地魚を活かした懐石料理で知られる「泉岳寺門前 紋屋」で「シャトージュン」最新ヴィンテージとのマリアージュを探る。旬の食材を使った料理に「シャトージュン 甲州2011」を合わせた前回とは対照的に、今回は「泉岳寺門前 紋屋」を代表するメニュー「魚神の塩焼き」と「シャトージュン シャルドネ2011」の相性をみてみよう。

魚の神と書いて、魚神(ぎょしん)。高級魚の代名詞、ノドグロをそう呼ぶ地域が富山にはあるという。その名のとおり、一匹をまるごとシンプルに焼いた「魚神の塩焼き」が「泉岳寺門前 紋屋」の名物料理である。湯気とともに焼き立てが運ばれてくれば、えもいわれぬ香ばしさが鼻を抜けていく。
「うん、いい香り」と有坂さん。一切れ口に含めば「身が甘くてジューシー。ナチュラルな甘さとしっとりとした食感、振られた塩のコントラストが素晴らしい。噛めば口のなかでふわりと広がるはかなさもあります。煮物を彷彿するほど、水分があって柔らかさのある塩焼き。食感の優しさとは対照的に、味にはしっかりとした存在感があり、脂に独特の旨みもあります。焼き魚は単純なようで難しいですね。この食感と味わいを自宅で再現できるかといったらなかなかそうはいかない。塩が振られた皮の焼きかげんがまた、ワインとマッチします。どのような塩を使用されていますか?」と質問する有坂さん。「九州の焼き塩を使っています。海外の岩塩なども試してみましたが、シンプルにこの塩がいちばん合いますね。魚自体の質がよいので、苦味や旨みが加わらないほうがいい」とは、料理長の淺沼朋彦さん。

1.「抜栓して少し経つと、より甲州とシャルドネの違いが際立ってきましたね」(有坂さん)。
2.奥からヤナギメバル、クロメバル、魚神(ノドグロ)、岩牡蠣。富山直送の地魚がずらりと並ぶ。
3.カウンターの目前でさばかれる、お造りの鮮魚。お造りはすべて当日〆立ての天然ものだけを使用する。
有坂芙美子

ワインジャーナリスト。日本初のワイン専門誌『ヴィノテーク』の創業者であり、アカデミー・デュ・ヴァンやJALのワイン・アドバイザー、国内外のワインコンクールの審査員など、日本を代表するワインジャーナリストとして活躍している。国境を越えてリースリングを愛するインポーター、ワイン振興会などが集う「リースリング・リング」をはじめ、さまざまなワイン団体、振興会、イベントの主宰や発起人としても精力的に活動。

この塩焼きに合わせたのは「シャトージュン シャルドネ」の若いヴィンテージ、2011。「色は完熟したシャルドネに由来する黄金色をきっちりと表現しています。まだ色調に薄さがありますが、これから熟成するにつれてより美しい黄金に変化していくでしょうね。香りも味も、レモンのようなフレッシュ感のある酸を感じます。フルーティで、非常にフレッシュ。味わいは、酸味と果実味と後味、すべてが心地良く調和しています。現時点ではまだ穏やかな酸も、熟成してくるとよりおもしろい変化をするのではないでしょうか。最新のヴィンテージではありますが、バランスのよさとこの個性に"若々しい"という印象はありません。完熟した葡萄がもっているゆとりが感じられます。また、欧州品種といっても、日本の土地に馴化された味わいをもっていますね。葡萄に限らず、外から持ち込まれた作物は次第に栽培される風土に順応した味わいへと変化していきます。このシャルドネも、山梨の地方性が表れようとしている印象」。魚神が運ばれてきたのは、抜栓してからしばらく経ってからのこと。その時点でまた、ワインにも変化があったようだ。

「色も香りもはっきり輪郭を見せるようになって、味もしっかりと力をもってきた。こういったタイプのワインこそ、シンプルかつ存在感のある魚神にマッチします。とはいえ、力を感じさせるワインは意外に難しいところもあります。今回の、甘さとジューシーさ、ふんわりとした食感をもつ焼き魚。ここにパワフルなワインを合わせると、結果は二分されてしまうんです。美しく調和をするか、個性が喧嘩をしてしまうか。抜栓して時間をおいたらボディがくっきりしてきたこのシャルドネは魚神と合いますね。"これ一つでアペリティフにぴったり"という甲州と違い、ぜひメインの料理と合わせたいワイン」。

「紋屋」を代表するシンプルかつ旨みに溢れた「魚神の塩焼き」は、山梨の土地で育んだ欧州品種から作り出された「シャトージュン シャルドネ2011」とのマリアージュを描いた。「土地と葡萄、そして作り手の人間性や醸造への取り組み方が日本のワインの要。醸造についてどう勉強してきたかというよりも、実際に畑で葡萄への観察力をもつこと、テロワールや気候を細やかに把握して考えることができること、観察したさまざまな要素を"翻訳"して醸造に活かしていけること。こういったことがこれから優れた作り手の特徴となっていくのではないかと思います。小規模で生産しているから数が少なく、値段もけして買いやすいものばかりではなくなっている。現在台頭しつつあるそういったワイナリーのみならず、日本のすべての作り手について、ワイナリーにもっと人が来てくれるように考えることがよいのではないでしょうか。畑を見てもらい、その場でワインを飲んで楽しんでもらう。ファンや愛好家をおもてなしして、大事にする。小売店で販売するだけでなく"ワインを通じたホスピタリティ"を大事にすることで、手に入らない消費者のフラストレーションや価格競争も緩和されるのではないかと思います」。

2回に渡って有坂さんにご登場頂き、「シャトージュン」と和食のマリアージュについてお話ししてもらったスペシャルバージョンのシリーズ。最後に、ワインと和食のマリアージュについてお考えをお聞かせ頂こう。「和食に合うと思うのは広い意味で言えば、新鮮で爽やかなもの、いきいきとした酸味のあるワイン。"これにはこれ"と決め込みすぎるのはつまらないですね。例えば、鮨に白ワインという合わせ方は単純な印象。合わせる料理を選ばないシャンパーニュでスタートして、徐々に優しい赤にシフトしてみてはいかがでしょう。タンニンが穏やかな柔らかい赤は、実は赤身のマグロやカツオ、ひかりものなどにマッチします。樽香が効いてしっかりとしたシャルドネなどスモーキーなワインは土っぽさをもつ松茸などと合うでしょうね。香りや味に何らかの共通項があるワインと料理は相性がいい。何でも自由というわけではなく、このように一定のルールはあります。今回のように、ワインの特徴をしっかりと捉えて合う料理を提供される店にヒントをもらうのもよいかもしれません」。基本的なルールをベースにしながら、自分の好みからマリアージュを見つけていけたらなんと楽しいことだろう。あなたの自分の好きな料理、ワインの共通項は何だろうか? 一見ばらばらに見えても、改めて見直せば思いがけない共通項が見つかるかもしれない。「シャトージュン」のワインが、思いもよらぬ素敵なマリアージュの一助となりますように!

シャトージュンが楽しめる店 泉岳寺門前 紋屋

魚、野菜、酒、米、水……富山の恵みをふんだんに用いた料理で知られる「紋屋」。泉岳寺の境内に店を構える「泉岳寺門前 紋屋」は、カウンター、テーブル、6つの個室と、抜群の立地のもと昼、夜と異なった風情ある表情を見せる。泉岳寺の借景はもちろん、元大使館関係の一軒家という作りを残した大きな暖炉も特徴的。ランチ(¥1,890〜)、ディナー(コース¥12,600〜)ともに、富山から直送した旬の海の幸を楽しむことができる。ディナーはアラカルトも用意
(1階のカウンターとテーブル席で対応。個室はコースのみ)。カード使用可。

DATA 泉岳寺門前 紋屋
東京都港区高輪2-11-6
電話 03-5447-1333
営業時間
月〜金:11:50~14:00(月曜は昼定休)、17:30~22:30
土、日、祝日:11:30〜14:30、17:00〜22:00
定休日 月曜(昼)
http://www.monya.org/