FEATURE

クリエーターが切り取る、シャトージュンのある風景

ワインのうんちくを語るのは愛好家にとっては幸せな時間かもしれません。けれど、もっと幸せなのはワインを飲む時間。気のおけない仲間と、あるいは仕事で意気投合した人たちと、はたまたパーティで、人と人との距離をより一層近付けてくれるのがワインです。では、注目のクリエーターたちは、どこでどんな風に誰とワインを飲んでいるのでしょう?ワインのあるひと時を彼ら自らの手で切り取っていただきました。クリエーターのみなさんは、シャトージュンをどう楽しんでいるのでしょうか?

第二回ブックディレクター・幅 允孝さんが切り取った、シャトージュンのある一週間

"本にまつわるあらゆることを扱う"をコンセプトとした「BACH(バッハ)」を立ち上げ、ブックディレクターという新たな職業を生み出した幅 允孝さん。
ビールの醸造師だったという父のもと、早くから酒に親しんできた(?)幅さんが語る、シャトージュンのワインをめぐる一週間。

:「BACH(バッハ)」代表、ブックディレクター。慶應大学卒業後、カナダ留学、世界各国への旅行を経て青山ブックセンターに勤務。2004年に"本にまつわるあらゆることを扱う"「BACH」を設立。カフェと融合した「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」や出版社を備えた「SHIBUYA PUBLISHING&BOOK SELLERS」などのディレクション、店舗や施設、広告のための選書、編集、執筆など"本"に関するプロジェクトを幅広く手がける。ワインをはじめ、酒類も幅広く嗜む日常が今回の企画で明らかに。
http://www.bach-inc.com/

シャトージュンから大きな箱が届く。
開けてみると、まあなんと沢山のワインが。にこり。
中身の入った酒瓶を見ると思わず笑みがこぼれてしまうのは、酒吞みのいかんとも
しがたい性(さが)である。

ジュングループといえば、洋服屋さんやレコード屋さんかと思っていたのに
なんとワインまでつくっておるのか?

父親がビール会社で醸造師をしていた影響か、幼少?の頃からビール、その次は焼酎、ワイン、日本酒、ウイスキーと無尽蔵に呑んだくれの半生を歩んできてしまった。

正直、細かい銘柄などはよくわからぬが、
喉を通した酒量だけならなかなかの地平まで達しているはずだ。

日頃のワインはもっぱらピノ・ノワールか、アルザス周辺のリースリング。
そんな味覚の30代男が気ままに呑みゆく
ワイン日記が始まります。

日本のワインは、あまり馴染みがないから
実はかなり愉しみなのである。

スープデザインにお邪魔する。
アートディレクターの尾原史和さんが最近刊行した『デザインの手がかり』の中で
対談をさせてもらったゆえ、出版祝いに1本持ってきたというわけだ。

今回は2007年の"セミヨン"。
さて、先日の2006年のヴィンテージとどんな違いが感じられるか?
なーんてことはあまり気にせず勢いよく、ぐびぐび。

確かにこの年も甘い樽香はしっかり健在だけど、
心なしかフレッシュな果実の微香がするような。
きりっと冷やしていたのを、時間をかけて
常温に近づけると前年との差異はより明らかに。
これは、かなり違いますよ。
ちょっとわかりにくいかもしれないが、
村上 春樹が訳した
『グレート・ギャッツビー』と
野崎 孝訳の『グレート・ギャッツビー』
くらいの違いがある。
主人公の輪郭の違いというのかな?

ちなみに僕の中では2006年が村上版で
2007年が野崎版な気がしました。

J-WAVEで定例のラジオ収録。
『ランデヴー』ナビゲーターのレイチェル・チャンさんは、あの爽やかな声色からは
想像できないほどお酒、大好きなんだそうです(秘密の話)。

この日はシャトージュン"甲州2009"を収録後のスタジオで抜栓。
そんなに広くないけやき坂スタジオだからその芳香はすぐ部屋をいっぱいに。

この甲州、JALの国際線エグゼクティブクラスで2010年のヴィンテージが採用され
ているらしいのだが、そんなブレイク中の一本は、なんとも柔らかくしなやか。

小さい頃、台所でオカンがメロンを切った時に、
隣の居間でテレビをみていたらふっーと漂ってくる匂い的な???
まあ、静かな甘みがすーっと鼻孔から入ってくるのです。

レイチェルさんも喉を通る感触を
絶賛しておりました。
ちなみに一緒にラジオをやっているご一緒した本のセレクトショップ、ユトレヒトの江口さんは某雑誌の企画で禁酒中。
写真では笑顔ですが、泣きながら
香りだけ嗅いでました。
かわいそーに。

フォークという素敵なWEB会社があって、少し大きな場所に引っ越しをするという。
その新オフィスにできる80坪もの休息スペースへ、本棚を置くことになったそう。
僕たちBACHの出番である。
人が本を手に取る機会が少しでも増えるのは、とても嬉しい。

内装を手がけるのはパドルの加藤さん(写真左手前)。
我が家のリノベーションもやってくれた建築家だ。
この春、彼は新たに自身の会社を立ち上げたのだが、この仕事がパドル加藤の第一歩。
まあ、お祝いも兼ねてといい訳もそこそこにシャトージュンの"セミヨン2006"を
昼間の打ち合わせから開けてしまいましょう。
抜栓してグラスに注ぐと、驚くほどの黄金色。

樽のあまーい香りに誘われるままに口に含むと、う、うまい。
送ってもらったワインの中では最も古いヴィンテージだが、甘やかなスモーキーさが、昼時に飲むのはもったいない程濃密でふくよか。

フォークの塩川会長(写真左奥)も、いたく気に入ってくれました。

春なのに台風の日。
外の春雷どこ吹く風、シャトージュンの"シャルドネ"を一人で開けてみる。
2009年のヴィンテージ。
透かして見えるような檸檬色。
よく冷やしてグラスに注ぐと、いかにも
シャルドネ然とした花の蜜のような香しさ。
だけど、この透明感はあまり経験したことがない
ワインかも。
透明なんだけど、その奥にあるコクといいますか。

まあ、プロじゃないんで、美味しく呑めて幸せ
でしたと綴っておきます。
あんまり熟成してないミモレットとよい
相性だった。

気がつけば、春の大風もどこかへ行って
しまわれたか?
桜の蕾やら、咲き始めた木蓮は大丈夫かな?
と少し気になる。

先月、電通のストラテジックプランニング局(長い名前ですね)
というところで、読書会をした。
僕はファシリテーターの役まわり。

若き社会学者の古市 憲寿さんを招いて、彼の著書『絶望の国の幸福な若者たち』に
ついて、参加者みなで話した。
ネット上のやり取りと違い、直接その本を書いた人にその場で質問や疑問をぶつける
のは、とてもスリリングで前向きな本との関わり方だと思えた。

そしてこの日は読書会の打ち上げ。
打ち上げ会らしく(?)芝浦の焼肉店で古市さん(写真左端。ほかは
電通ストラテジックプランニング局の皆さん)を囲み
シャトージュンの"メルロー"を開ける。
黒すぐり色のミディアムな赤は、しっとり
と滑らかな飲み心地。抜栓直後から香り
広がる円やかなこのワイン。
カルビやハラミよりは、タンですよねー、
あわせるなら。タレよりは、俄然シオ。

ビールなどをかなり飲んだあとだった
けれど、すーっと染み込むように
胃袋の中に消えてしまいました。

そんなこんなで、シャトージュンのワインを飲みまくった報告は、このあたりで。
日頃は、どれを手に取っていいものやら?となかなか口にしない日本のワインだったが、
すごい勢いでシーンは進化しているのだと実感。
確かにブルゴーニュやらボルドーの異様な価格の銘柄を頂点とする世界のワインヒエラルキーは
まだ存続するだろう。けど、自分なりの美味しさとか、親密さを求めるワイン探しが
日本のワインを飲む際には、似つかわしい気がした。
決して、どこかのワインの真似ではないシャトージュンのワインたち。
ほんとに御馳走様でした。ああ、幸せな仕事だったな。幅 允孝